生産牧場の成績傾向【2022年7月】

2000年〜2019年生まれ20年間約100,000頭の国内サラブレッドのデータを使って生産者(牧場)と勝ち上がり率・収支の相関を見ていきます。

 

まずは全体の傾向から。生産頭数が多い上位40牧場に絞ってグラフ化しています。

棒グラフ:牧場ごとの頭数(縦軸左)

折れ線グラフ:勝ち上がり率:% または収支金額:万円(縦軸右)

全体:勝ち上がり率

ノーザンファーム(47%)、社台ファーム(40%)、白老ファーム(37%)という順は概ね予想通りです。ちなみに勝ち上がり率の総平均は24%なのでノーザンファームは平均の2倍の成績を出していると考えて良いです。ただその後も三嶋牧場(36%)以下やはり頭数が多い=経営がうまく行っている、ということなので接戦で他の牧場が続いています。比較的頭数が少ないところではノースヒルズ、ケイアイファームが高い勝ち上がり率です。

 

全体:収支平均

次は収支から見ていきます。収支の場合は支出算出のため、セリ購入馬および一口馬主クラブ所属馬のみで集計しています。棒グラフ(牧場ごと頭数)は少し数値が減っています。

 

こちらはビッグレッドファーム、グランド牧場、岡田スタッド、コスモヴューファームといったラフィアン、ノルマンディー、ウイン系の牧場が上位にきて勝ち上がり上位のノーザンファーム、社台ファームは高額馬が多いためかあまりふるいません。

 

次は一口馬主クラブ所属馬に限定してみます。

クラブ馬限定:勝ち上がり

 

やはりノーザンファームが49%と高いですがサンプル数は少ないものの坂東牧場が50%とトップ。千代田牧場、辻牧場をのぞけば全体的に各牧場の平均よりも高い値になっており、一口馬主クラブへ良質な馬を提供しているといえそうです。

クラブ馬限定:収支平均

収支はやはり全体傾向と同じくビッグレッドファーム、岡田スタッドが上位、勝ち上がり率もよい坂東牧場も好成績。ノーザンファームがこちらではかなりよく、サンデー、キャロット、シルク、東サラは高額化している印象もありますが実はお買い得なのかもしれません。

 

ノーザンファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

毎年着実に頭数を増やしながらも2011年生まれあたりからずっと勝ち上がり率50%近くを維持しています。

牡牝勝ち上がり率:牡54% 牝39% 全体平均13ポイント差より若干牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○ドゥラメンテ:61%

○ルーラーシップ:59%

○ダイワメジャー:57%

 

傾向1:当歳セリも1歳セリも成績ほぼ同じ

こちらでご紹介したとおり、全体では当歳セリと1歳セリでは勝ち上がり率に多く差がでますが、ノーザンファームではいずれも45%と差がありません。推測ですが高値がつきやすい1歳のセレクトセールにいい馬を残しているのではないかと思えます。

 

傾向2:高齢の母馬でも好成績

全体的な平均では、母馬と仔馬の年齢差は7歳〜9歳あたりで勝ち上がり率のピークがきます。ノーザンファームでは7歳から9歳で全体平均と同様の”山”ができますがそれ以降も高い勝ち上がり率を維持しており、サンプル数は少ないものの18歳差、22歳差で高い勝ち上がり率を出しています。

これは”取捨選択”というと厳しいですが、しっかり結果の出せる繁殖牝馬のみを残すという経営判断とも考えられます。

傾向3. クラブごと成績

こちらのグラフは勝ち上がり率が高いクラブを左から並べています。棒グラフは頭数、折れ線グラフが勝ち上がり率です。ロードはサンプル数が少ないので例外として、東サラは57%と高いです。一方グリーンは24%と、安い馬も多いですがかなり差がついてしまっています。

 

社台ファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

頭数は2010年くらいまでは着実に増やしてこの10年くらいは現状維持。成績は2011年以降下降傾向

牡牝勝ち上がり率:牡49% 牝31% 全体平均13ポイント差より牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○マジェスティックウォリアー:45%

○ヘニーヒューズ:50%

✗ルーラシップ:21%

✗ハービンジャー:24%

 

傾向1 早生まれがさほどよくない

全体傾向とししては早生まれのほうが勝ち上がり率が高いのですが、社台ファームについては1月生まれがあまりよくありません。逆に6月生まれがサンプル数が少ないもののよい成績です。

 

傾向2 母馬との年齢差は10歳がピーク

母馬と仔馬との年齢差は全体平均より山が若干右にずれているようで10歳がピークになっています。

 

傾向3 クラブごと成績

左から4クラブはサンプル数が少ないので除外すると一番よいのは社台サラブレッドクラブ。グリーン、東サラはやや落ちて39%。最近はあまり募集ないですがキャロットは28%と低いので注意必要です。

 

白老ファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

頭数は2012年生まれから横ばい。勝ち上がり率もこの3年は30%台中盤で推移

牡牝勝ち上がり率:牡44% 牝29% 全体平均13ポイント差より若干牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○ドゥラメンテ:73%

○スクリーンヒーロー:55%

○ロードカナロア:48%

✗キンシャサノキセキ:26%

✗モーリス:0%

 

傾向1 母との年齢差が8歳と16歳でピーク

母親と仔馬の年齢差には変わった傾向があり、8歳あたりで勝ち上がり率がピークをむかえるのは全体平均と変わらないのですがその後いったん下がったあと13歳からあがりはじめて16歳で2回めのピークになっています。その後もサンプル数は少ないもの時折高い勝ち上がり率となっています。これは12歳あたりを繁殖牝馬の”見きわめ”のポイントとしているか偶然そうなっているのか不明です。

 

傾向2 クラブごと成績

ライオンが少サンプル数ながらなかなか高くトップ(57%)、社台ファームにつづきここでもキャロットが低い(33%)のはやはり注意。

 

千代田牧場

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

2005年〜2009年と頭数を増やしていったが成績は下降。頭数は若干抑え気味となり勝ち上がり率も全体平均24%を下回る年もたびたび。

牡牝勝ち上がり率:牡34% 牝17% 全体平均13ポイント差よりやや牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○エピファイネイア:50%

○モーリス:50%

○キズナ:45%

✗ジャスタウェイ:0%

✗ディープブリランテ:0%

 

傾向1 1月生まれがよくない

なぜか1月生まれが低め

 

傾向2 クラブごと成績

ラフィアンが、4頭しかいないが2頭勝ち上がり。ただしそれ以外は軒並み各クラブの平均勝ち上がり率より低いのは注意必要

 

下河辺牧場

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

2012年から頭数増。年ごとの好不調あるものの20年間勝ち上がり率は横ばいで推移。2019年生まれは好調

 

牡牝勝ち上がり率:牡41% 牝25% 全体平均13ポイント差より牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○ダイワメジャー:59%

○ルーラーシップ:60%

○ブラックタイド:50%

✗キンシャサノキセキ:10%

✗ハービンジャー:6%

 

傾向1 若い母馬が良くなく高齢でも成績キープ

母親との年齢差では8歳、12歳、19歳で36%と、高齢になっても成績落ちません。逆に6歳差までの若い母馬は低調です。

 

傾向2 安い馬がお得

横軸=価格帯(セリ売却額や一口クラブ募集総額)と折れ線グラフ=勝ち上がり率の関係です。

グラフの3000万円〜3750万円のゾーンが勝ち上がり率67%と高いですがそれより高額馬は決して高くなくむしろ落ちています。逆に750万円以下の安い馬が27%と高くこれは他のクラブでは見られない傾向です。

 

傾向3 母馬が外国産馬のほうがよい

グラフの一番左が日本産の母馬(28%)、それ以外が国ごとの母馬の勝ち上がり率ですべて日本産をうわまわっています。これはこれまでの上位の牧場にはない傾向で他は国産・外国産母馬同程度の成績でした。

クラブではターファイトやユニオンがよく、友駿とYGGがよくない

 

岡田スタッド

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

 

勝ち上がり率は20年間よこばいながら着実に頭数を増やしていき2018年またさらに管理頭数アップ

 

牡牝勝ち上がり率:牡35% 牝21% 全体平均13ポイント差とほぼおなじ

おすすめ種牡馬

○スクリーンヒーロー:46%

○イスラボニータ:50%

○スウェプトオーヴァーボード:47%

✗ダイワメジャー:15%

 

傾向1 遅生まれのほうがよい

横軸=生まれ月と折れ線グラフ=勝ち上がり率の関係です。

全体の傾向にくらべて逆の相関になっています。理由はわかりませんが遅生まれのほうが勝ち上がり率がよいようです。

 

傾向2 関東馬がいい

グラフの横軸の”E”=関東馬(33%) ”W”=関西馬(32%)です。

全体及び他のクラブはほぼすべて関西馬のほうが優勢ですが、この牧場の生産馬だけは関東馬のほうが若干成績がよいです。これはやはり牧場及びオーナー関係者が関東の調教師と繋がりが強いからではないかと推測されます。

クラブ馬はほとんどノルマンディーになりますがこの牧場平均よりも高め(40%)

 

ビッグレッドファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

 

頭数は2016年生まれで最大となりましたがまたそれ以降減らしています。2017年に産駒を厳選した効果か高い勝ち上がり率となりましたが2018年以降若干落とし気味

 

牡牝勝ち上がり率:牡41% 牝28% 全体平均13ポイント差とおなじ

おすすめ種牡馬

○ゴールドシップ:39%

○ダノンシャンティ:38%

○アイルハヴアナザー:41%

✗ダイワメジャー:18%

 

傾向1 1月生まれが良くない

ビッグレッドファームもなぜか1月生まれがよくありません。30頭少しのサンプル数なので明確な傾向といえるかは微妙ですが。

 

傾向2 クラブごと成績

頭数少ないもののライオンがよく、ウインはよくありません。このあたりがウインとラフィアンの提携解消につながったかどうかわかりませんが。

 

追分ファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

頭数を着実に増やしています。2012〜2013年生まれの低調からは脱してきていましたが、2019年生まれは管理頭数減らしたにも関わらず今のところは低調気味

 

牡牝勝ち上がり率:牡39% 牝27% 全体平均13ポイント差とほぼおなじ

おすすめ種牡馬

○ハーツクライ:43%

○ダイワメジャー:40%

○モーリス:40%

✗ノヴェリスト:13%

✗ジャスタウェイ:13%

 

傾向1 母馬高齢でもよい

この牧場でも12歳差を”底”として再び成績が上昇するグラフが見えています。これは白老ファームと類似の傾向で、”親類”クラブとして牧場経営のやり方も似通ってきていると思われます。

 

傾向2 クラブごと成績

キャロット(37%)、サンデー(36%)、シルク(25%)いずれもクラブ全体の勝ち上がり率から考えるとよくありません。この3クラブの大多数を占めているノーザンファームの馬よりも割引必要かもしれません。

 

コスモヴューファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

2016年が頭数・勝ち上がりともに低調でしたがその後もりかえし。ウイン募集馬はほぼ全てこの牧場生産ということでますます注目です。

 

牡牝勝ち上がり率:牡37% 牝32% 全体平均13ポイント差よりも牝馬優勢

おすすめ種牡馬

○ゴールドシップ:55%

○スクリーンヒーロー:46%

✗ダイワメジャー:0%

 

傾向1 2000万円以上は堅実

2000万円以上の勝ち上がり率は50%超え、3000万円以上は70%以上と高い数値

 

傾向2 クラブごと成績

頭数がいちばん多いのはやはりウイン。勝ち上がり率でラフィアン(44%)よりやや落ち(40%)ますがこの牧場の平均よりは高いです。

 

ケイアイファーム

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

ダノンとロードでおなじみケイアイファーム。近年頭数も増やしていき勝ち上がり率50%超えもたびたび。

 

牡牝勝ち上がり率:牡46% 牝32% 全体平均13ポイント差とほぼおなじ

おすすめ種牡馬

○ダイワメジャー:64%

○ネオユニヴァース:40%

 

傾向1 関西馬断然

全体でも関西馬のほうが好成績ですがこの牧場は特に顕著です。(関東29% 関西44%)頭数も関西馬のほうが多いことからも関西の調教師との繋がりがふかそうです。

クラブ馬はほぼロードのみ。牧場平均39%よりも当牧場のロード平均(41%)の方が若干高くなっています。

 

グランド牧場

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

 

10年以上も30%以上の勝ち上がり率をキープしています。

勝ち上がり平均34%

牡牝勝ち上がり率:牡44% 牝26% 全体平均13ポイント差よりかなり牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○シニスターミニスター

○パイロ

傾向1 2000万円くらいまでがよい

価格は2000万円くらいまでが勝ち上がり率のピーク。それ以上高い馬はさほど成績良くありません。

 

坂東牧場

産駒生年ごと成績

棒グラフ:生年ごとの頭数  折れ線グラフ:勝ち上がり率

実は坂東牧場の勝ち上がり総平均は30%。そのうち一口馬主クラブ提供馬については50%ということでおそらく選びぬいた仔馬を提供しているようです。

勝ち上がり平均30%

牡牝勝ち上がり率:牡41% 牝20% 全体平均13ポイント差よりかなり牡馬優勢

おすすめ種牡馬

○パイロ 78%

○カジノドライブ 58%

✗オルフェーヴル 6%

 

傾向1 母馬は高齢なほどよい

全体的に母馬と仔馬との年齢差は7歳〜9歳がよいのは何度か紹介しましたが、この牧場については14歳差がもっともよく、母が高齢のほうが成績がよい傾向にあります。

 

傾向2 クラブごとの成績

シルク、広尾、東サラはよいですがキャロットはそこそこ、サンデーはよくありません。

その他この牧場では、1月生まれ(58%)2歳セリ購入馬(40%)関西馬(44%)によい傾向が見られます。

 

ビクトリーホースランチ

勝ちあがり平均27%

クラブ馬は大樹のみ

 

ヤナガワ牧場

勝ち上がり平均29%

かつてはシルクに多くの募集馬を提供。一億円以上率が3.5%と高く、キタサンブラック、コパノリッキーもこの牧場から。

 

新冠橋本牧場

勝ち上がり平均26%

頭数は少ないながらも徐々に頭数・勝ち上がり率ともに上げてきています。クラブではキャロット、ウインが良績

 

三嶋牧場

勝ち上がり平均36%

2021年にはインゼルという新規クラブ立ち上げで注目の三嶋牧場ですが、近年頭数も増やし2016年は59%それ以降は落としながらも平均勝ち上がり率は高いレベルでキープ。2歳セリ購入馬がよく、牡牝では牡馬が断然。

辻牧場

勝ち上がり平均31%

近年頭数も増やして2019年生まれは45%と好調。ただしユニオンで主に出されているクラブ馬は15%とこの牧場の平均よりもかなり低く、一口で買うなら注意したいところです。買うなら牡馬

 

谷川牧場

勝ち上がり平均24%

2015年以降頭数も増やしていますが、この2年はやや苦戦中。クラブはターファイト中心ですがこちらは38%と牧場平均より高め。母馬のとの年齢差は11歳〜13歳くらいの方が良さそうです。

 

パカパカファーム

勝ち上がり平均22%

この10年以上は頭数は横ばい、成績は2012年生まれをピークに下降。クラブは頭数ではワラウカド、大樹が多いのですが、成績はその他のクラブの方が良さそうです。

 

日進牧場

勝ち上がり平均31%

この20年間頭数もほぼ変わらない小規模牧場ですがユニオンのクラブ馬が48%と牧場平均よりもだいぶ高いのでここで取り上げました。頭数が少ない関西馬の方がかなり優勢

 

生産牧場傾向(まとめ)

勝ち上がり率上位:ノーザンファーム、社台ファーム、白老ファームと一口クラブ馬の坂東牧場は高い

収支はビッグレッドファーム、グランド牧場が上位だがやはり勝ち上がり率上位重視したい。

その他、牧場ごとに生まれ月、母馬との年齢差などに顕著な特徴もいくつかあるので注意必要